岐阜県・郡上から発信されるジビエとの美味しい関係|食のミライ
ジビエシーズン到来。
今では当たり前のようにレストランのメニューに並ぶが、ジビエという言葉が認知されたのはここ数年のこと。それまで猪肉や鹿肉というと、山間の宿で囲炉裏を囲みながら鍋でいただくというイメージが強かった。
そんなジビエがまだまだ普及していない頃に狩猟に注目し、猟師の6次産業化を目指して「猪鹿庁(いのしかちょう)」を立ち上げたのが、今回お話を伺った興膳健太さん。
狩猟の世界で新たな仕掛けを繰り出し続ける
その活動は幅広く、狩猟とジビエの魅力を広めるためのさまざまな取り組みを企画してきた。
日本全国から猪肉を集めてNo1を決める「利き猪グランプリ」や熟成猪肉の実食を行う「日本猪祭り」はすでに3回開催。また罠を仕掛け、射撃体験、鹿の解体、実食と、ジビエが山から自分の口に届くまでをたどるツアーも好評だ。
過去にはひと口1万円で罠のオーナーを募り、期間中に獲れたジビエを配給する「罠オーナー制度」にチャレンジしたことも。罠の近くにはセンサーカメラを設置、ライブ感を伝える工夫をして満員御礼の大好評を得た。
狩猟の免許を持っていても、都会に住んでいてなかなか猟ができない人に提案するのは「クラウドハンター」。週末に罠とカメラを山に仕掛け、都会に戻ってからは遠隔で罠の様子をモニタリング、捕獲した獲物は地元の猟師が解体処理を行い参加者で肉を分け合うというプログラムを作りあげた。
日本三大産地でも先細る狩猟業界へのチャレンジ
日本三大猪の産地と言われる岐阜県郡上市を拠点に、猟師の新しいカタチを目指す興膳さん。狩猟に興味をもったきっかけは何だったのか。
「郡上市へは大学を卒業してすぐに移住しました。最初はNPO法人のキャンプ場でインストラクターをしていたんですが、仕事は春~秋のみ。キャンプ場が冬の事業を検討しているときに縁があって代表を引き継ぎました。冬の仕事で一番面白そうだのが狩猟なんですよね。2009年にタイミングよく県のプロポーザル事業の募集があって、『半農半猟師』の企画を出したら通っちゃって(笑)。それを機に狩猟部門を立ち上げました」
郡上市は、京都の丹波篠山、伊豆の天城に次いで、日本三大猪の産地。もともと狩猟文化はあったものの、事業としての狩猟を勧める人はいなかった。
「近所の猟師民宿でたまに猪を捌いていたので、見学しながら何度か食べさせてもらってたんです。それがとても美味しい!だから『猟師になりたい』って言ったんですけど、『今は金にならないからやめとけ』って」
「スキーの宿泊客が猪鍋を食べたり、「志し肉」と呼んで縁起物として年明けに食べる風習があったりしたのは昔のこと。今では交通が便利になって宿泊客が減り、地元でも他の肉が安くて旨いからわざわざ食べないという人が多くなって」
「要は猪や鹿を獲っても、買手がいないんですよね。昔の猟師さんは自家消費の延長で、衛生的に捌く概念だったり、血抜きだったりといったノウハウがしっかり伝わってなくて、臭みが残ったものが出回ってしまった。そんなこともあって次第に評判が落ちていって……」
それでも、地元の文化で町おこしがしたかったという興膳さんは、仲間とともに狩猟に挑戦する。
「猟師さんには暗黙のルールで縄張りがあるんです。罠の免許しかない新規参入の自分たちはキャンプ場の裏で仕掛けるしかなかった。さらに運悪く12月のあたまに大雪が降って終了……」