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「知る」

岐阜県・郡上から発信されるジビエとの美味しい関係|食のミライ

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猪骨ラーメンがつないだ縁

狩猟エリアが限られ、天候にも恵まれなかった1年目。しかし、県の補助金をもらっている以上、そこで終わるわけにはいかないと商品づくりにスイッチ。それが思わぬ効果を上げる。

「最初に挑戦したのが、とんこつラーメンならぬ「猪骨(ちょこつ)ラーメン」。めちゃめちゃ美味しくできたんですが、販売価格が2000円くらいになって、商業的には成り立ちませんでした。1頭分の骨で10杯分のスープしか取れなかったんです。でも、骨をもらいに回っていたらみんな面白がってくれて、試食会で人間関係が築けた。最初は警戒されてましたからね、よそ者集団があちこちに罠を仕掛けてトラブルを起こすんじゃないかって」

幻となった「猪骨ラーメン」。しゃぶりつきたくなるような猪のチャーシュー

その中で今の狩猟の師匠とも出会った。

「処理施設を作る計画があるから手伝えよって。なんなら、鉄砲の免許も取ってお前も山に来いって言ってくれたんです」

保健所の許可を得た処理施設で処理できるようになり、肉の販売が可能に。レストランへの営業活動を始めましたが、100軒電話して興味を持ってくれたのは12~13軒。試食してもらっても値段がネックとなった。

「『もうちょっと安かったら買うよ』って。これは心が折れるなと思って、肉販売からは手を引きました。それでも県の事業として商品開発がゴールだったので、ジャーキーを作ってパッケージ化。道の駅などで販売して反応は良かったけど、利益があまり出ないのでこれも撤退しました」

体験イベントを通してコアなファンを獲得

飲食や物販を経て、今のイベントや体験型のコンテンツへシフト。冒頭で紹介したさまざまな活動を展開する。

「体験の中で実際に食べてもらうと、美味しさが直接エンドユーザーに実感してもらえるんです。そうすると個人的に買いたいって言ってもらえる。特に年末なんかは需要が高いですよ。信頼関係もできてるから『言い値でいいよ』『じゃあこれもつけとくよ』って、気持ちのいい取引ができる。これが自分たちが求めているものだなって感覚がありますね。猪や鹿は自然のものなので、獲れる量は不安定。だから相場はあるけど、時価が理想的。それを理解してくれるお客さんと関係を築ければいいかな。コアなファン作りをしていきたいですね」

体験ツアーで自ら鹿をさばく参加者

高齢化が進む業界だが、新たな希望も

ジビエファンは急激に増える一方、供給側はその需要に応えられる体制が整っているのだろうか。

「高齢化が進んでいますね。郡上では8割は60歳以上、半数は70歳以上でしょう。若者は都会へ流れ、担い手は減っています」

それでも明るいニュースはある。以前はセットだった罠と網の免許が平成18年度から分離され、罠だけでも取得可能に。罠の免許は試験を1日受けて合格すれば取得できるので、挑戦する人が増えている。

「田舎で畑を作りながら、その隣で罠を仕掛けて猪や鹿を獲る。若い方が憧れている田舎暮らしと罠って相性がいいんですよ。ちょっとした狩猟ブームが来ているように感じますね」

東京で行われる試験では、あまりの人気に受験回数に制限が設けられることも。

クラウドハンターに分配される収穫。新しい発想と仕掛けで狩猟業界を盛り上げる

昔ながらの方法で守られてきた狩猟文化に、新しい視点と発想で新風を吹き入れる興膳さん。これからも狩猟とジビエの可能性を広げ、若い世代との橋渡しをしながら新たな楽しみ方を開拓してくれそうだ。

次回は日本全国を巡り、各地のジビエ事情にも詳しい興膳さんに、美味しいジビエとの出会い方を伺う。

 

興膳 健太  郡上里山株式会社 代表取締役
1982年福岡県生まれ。福岡大学から岐阜大学地域科学部に編入し、まちづくり活動について勉強していたとき郡上市を知る。そのとき知り合った移住者の先輩たちの姿に憧れて2007年に郡上へ移住。里山が抱える獣害の問題と向き合い、猟師の仕事を多くの人に知ってもらいたいという思いではじめた「猪鹿庁」の活動が全国的な注目を集める。