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「観る」

シンガポールのホーカーから大阪・京橋の立ち飲み屋まで。アジア9か国の屋台飯に食の神髄をみる|食の上映室

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食をテーマにしたTVプログラムが提供しているのは、世界の食文化や歴史を目で味わえる特別な体験である。スクリーンから登場するキッチンの心地よい音や彩り豊かな数々の料理に出会うと、食の奥深さに魅了されるはず。「食べる」を軸にした作品のなかから、おすすめの番組を紹介する。

Netflixオリジナルシリーズの『ストリート・グルメを求めて: アジア』独占配信中は、ストリートフードである屋台料理と、伝統を守りながら料理作りに情熱をそそぐ人々の姿を追ったドキュメンタリーである。  

アジアの屋台料理の変遷

野菜と揚げた魚の頭でだしをとる台湾の屋台料理

 

それぞれのエピソードでは、活気に満ちたアジアの9つの国々を取り上げ、地域に根づく伝統的な屋台料理のほか、料理人やシェフたちの人生を紹介している。混沌としたアジアの喧騒や街並みに溶け込む料理の数々を見ていると、あまり馴染みがないものもある一方、なぜか食欲をそそられてしまう。

簡素な椅子に腰を掛け、プラスチック製のチープな食器を使い、人々が思い思いに屋台飯を頬張る。小さく限られたスペースの屋台には、店主の心意気と熱気が、これでもかというほどに詰まっているようだ。

アジアには、屋台料理が発展している地域が多く点在している。一説によると、経済的に台所を所有することが難しい家庭が多かったため、日常的に安く楽しめる屋台料理の文化が形成されたという。それぞれのエピソードでは、食の専門家なども登場し、国や地域の歴史と屋台料理の関係が深く掘り下げられている。

もちろん、屋台で提供される料理だからといって、決して味はレストランなどにも引けをとらない。ドキュメンタリーのなかでは、タイの一般的な家庭料理をアレンジし、ミシュラン星を獲得した屋台のストーリーも登場する。

家族代々受け継がれてきた重要なエッセンスを守りながら、一つの料理を極め続けるシェフたちの探究心には、人々に感動を与える力がある。焼く、炒める、煮る、揚げる。そんなシンプルな調理方法が多い屋台料理にこそ、食の真髄が宿るのかもしれない。

共にテーブルを囲むことで生まれる、ゆるやかな連帯感

シンガポールでは、屋台や料理からも、国の多様性を感じることができる

伝統文化を伝え続けてきた屋台のなかには、技術の力をうまく取り入れ、静かに、そして確実に発展を遂げているものもある。

その一つの例が、シンガポールで屋台を営むAisha Hashim氏である。彼女が日々調理をしているのは、マレーの伝統的なお菓子「Putu Piring(プトゥ・ピリン)」だ。盃のような型に米粉を詰め、椰子の木から採取された「グラメラカ」のペーストを挟んで蒸し、ココナッツフレークをまぶす。以前はすべての調理過程を手作業でおこなっていたが、彼女が自動の調理器を導入したことをきっかけに、次々と店舗の拡大に成功したという。

シンガポールは、多民族社会としても知られている国である。中華系やマレー系、そしてインド系など、多種多様な人々が小さな面積に集まって生活を送っている。そんな様々なバックグラウンドをもつ人々が一同に集まるのが、Aisha Hashim氏も屋台を出店している「ホーカーセンター」だ。ホーカーセンターとは、廉価な飲食店の屋台や店舗を集めた複合施設のこと。まさに、地元料理の宝庫とも呼べる場所である。食べる楽しみは、国や国籍、人種の垣根を超える力があるように思う。

食い倒れの街「大阪」で味わう、屋台の魅力

商売と人情、グルメとお笑いの街である大阪

なんとも嬉しいことに、今回のNetflixオリジナルシリーズには日本編も含まれている。日本編のエピソードで取り上げられているのは、「食いだおれの街」として国内外から注目を集める大阪だ。

ストーリーの主人公は、大阪の京橋で「居酒屋とよ」を営むマスター。とよは露天の立ち飲み居酒屋として、連日多くの人々で賑わう大阪の人気店のひとつだ。すぐ裏手には墓地が接しており、決して店構えがおしゃれというわけでもない。だが、近年では海外からの観光客も集まるスポットにもなっている。

屋台を起点に発展を遂げた料理は、日本にも数多く存在する

とよの人気の秘訣はどこにあるのだろうか。大阪編のエピソードには、その魅力がふんだんに描かれていた。味の美味しさと値段の安さに驚く、お客さんの弾けるような笑顔。キンキンに冷えたビールを屋台で一気飲みできる開放感。そして、とにかくおいしい状態で料理をお客さんに提供したいという、マスターの熱い思い。

幼い頃から様々な苦労を経験したというマスターの口からは、こんな言葉がこぼれていた。「牛の尻尾になってはあかん、鶏のとさかになれ」。大きな組織の下っぱとして甘んじるのではなく、たとえ小さな組織でもリーダーとして歩むべきである。この言葉にこそ、数々の名門屋台シェフの心意気が詰まっているのかもしれない。彼らは気概と誇りをもって、自身の最大限の力を料理に注いでいるのだ。

近日のテレビやニュースには、人の姿がまばらな大阪の街が映し出されている。新型コロナウイルス感染症の拡大は、飲食業界に大きな影響を及ぼした。大阪市の繁華街・新世界の老舗ふぐ料理店「づぼらや」といった街のアイコンのような場所が、姿を消し始めている。

大阪は筆者にとって、社会人としてのスタートを切った大切な場所である。初めての仕事に向き合うなかで、優しくも叱咤激励してくれた大好きな街である。人情あふれる喧騒や活気に満ちた景色が似合う大阪で、屋台料理を楽しめる日を、今か今かと心待ちにしている。

Netflixオリジナルシリーズ『ストリート・グルメを求めて: アジア』独占配信中
公開年:2019
制作: Netflix
視聴リンク:https://www.netflix.com/jp/title/80244996