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隠れたスウィーツ大国ではトイレットペーパーケーキが流行中|コロナ猛威の中の世界の食

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コロナウィルスが猛威をふるいはじめて以降、大きく変わった私たちの生活。日本でも東京をはじめ外出自粛の動きが広まってきたが、多くの国では日本よりも早い段階で外出を規制する動きが広まった。そんな窮屈な生活の中で、海外の人々は食とどのように付き合い、また楽しんでいるのだろうか。今回は現在のドイツの様子を、現地在住の駒林 歩美氏に、「食」という切り口からレポートしてもらった。

コロナ危機に際し、比較的死亡率が低い国として日本でも報道されているドイツ。それでも4月3日にはドイツの患者数が、中国のオフィシャルな患者数8万2千人を超えてしまった。そんなドイツの西端の街から、食を取り巻く現在の状況をお伝えする。

トイレットペーパーケーキが流行

3月前半の急速な患者数増加を受け、私の住むドイツ西端のノルドライン・ウェストファーレン州でも、3月16日以降、学校や保育園を始め、食品や医薬関係、車両関係など生活に必要最低限とされる店舗や施設以外は全て閉鎖された。3月23日からは、全国規模で同居家族等以外の人との接触が制限され、家族以外の2人以上の他者と会うと罰金を取られるようになった。各所で他人との距離を必ず最低1.5m開けることが求められている。買い物や個人による運動は許されているので、私もよく人気のあまりない緑の中を散歩したり、ここぞとばかりに珍しい料理に挑戦したりしてリフレッシュしている。

なお、患者数が増え始めた3月前半から、スーパーでは、小麦粉、日持ちのいいパスタやロングライフ牛乳に加え、トイレットペーパーなどの消耗品等が消えた。ドイツでは、買い占めのことを、口に食べ物を蓄えるハムスターになぞらえて、ハムスター買いと呼ぶ。4月頭の今となっては、買い占めも落ち着き、物流は止まっていないので、スーパーに行っても大体の物資は手に入る。

なお、食品なので、ドイツの誇るパンやケーキ屋も普段通り営業しているのだが、営業がガタ落ちしたドルトムントのケーキ屋が、現在の状況を皮肉り、トイレットペーパーの形をしたケーキを販売して話題になっている。

時流に乗って、大ヒットしているクリエイティブなトイレットペーパーケーキ
©️Das Schürener Backparadies

これは他のケーキ屋でも作られるようになり、ヒットして、休業に追いやられた従業員を再度呼び戻せるようになったと言うニュースも目にする。我が家からは、電車に乗らないとそのケーキを買いに行けないため、残念ながらまだその味までは試せていない。

日本ではバウムクーヘンやシュトーレンくらいしか知られていないが、実はドイツのケーキ・スイーツ文化は非常に発達しており、種類も数えきれないほどある。とにかく皆甘いものが大好きなのだ。どこか硬いイメージのあるドイツ人だが、コロナ騒動前には、あちらこちらで多くの老若男女が、大きなアイスクリームを口にしているのをよく見かけた。

正直ドイツ人が家で手のこんだ料理を作っている印象はあまりないが、お菓子を家で頻繁に作っている人は少なくない。今回小麦粉がスーパーからいち早く消えたのも、料理用だけでなく、家でお菓子をたくさん作ろうと思った人が多かったのではないかと思う。レシピを紹介するスーパーマーケットのサイトでは、トイレットペーパーケーキの作り方や、品薄の小麦粉を使わないでも作れるケーキのレシピなどが公開されるようになった。こんな状況でも、今を少しでも楽しもうとする人が少なくないのが微笑ましく、心強い。

今でも唯一スーパーで品薄状態となっている小麦粉

白アスパラガスのために国境封鎖を緩和?

ドイツ人にとって特別な存在であるシュパーゲル(白アスパラガス)

一方、コロナウィルス による危機で、ドイツの春の食卓が脅かされている。

これまで移動の自由が保障されていたEU内において、感染を抑えるべく、各国が国境封鎖という政策に打って出たため、春の収穫シーズンを迎える各国で農業労働者が移動できなくなっている。

ドイツにおいては、長い冬の終わりを告げる、特別な農作物であるシュパーゲル(白アスパラガス)も危機に瀕している。本来、これらの春の野菜の収穫は、毎年ルーマニアやポーランドからやってくる季節労働者が担っていたのだが、国境閉鎖でこの労働者たちがドイツに来られなくなり、大問題になっていた。

大議論の末、ドイツ政府はここに来て、4万人の農業従事者の入国を許可することとなったが、ドイツ中が熱狂するシュパーゲルが食卓に届かないまま畑でダメになってしまったら、人々の不満が大きく高まると考えたのかもしれない。

白アスパラガスは、EU内では形や太さでランク付けされ、直径が3cmくらいあるようなものも売られている。私もドイツに来て初めて目にした時は、衝撃を受けた。シュパーゲルはシンプルだが、風味が豊かで、リースリングなど辛口の白ワインと合わせると、春の訪れに心が躍る。

星付きレストランのフルコースディナーもテイクアウト可能

春の収穫は、アスパラガスにとどまらず、ラズベリーやカシス、イチゴなど、ベリー系の収穫にも多くの人手がいる。実は4万人の季節労働者ではまだ足りず、あと1万人以上が一時的に農業に従事する必要があるとされている。

今回の危機で仕事を失った人たち等、仕事を探す人と、農家をマッチングするためのサイトが連邦食糧・農業省によって一早く立ち上げられた。私も時間ができたので、マッチングサイトを覗いて、隣駅にあるベリー農園に問い合わせて見たが、週40−60時間労働で、5〜7月の3ヶ月間従事して欲しいと言われた。1週間に最大6日働くそうで、時給は約9ユーロ強(日本円で1,100円弱)。

こんな時期だからこそ、困っている人の助けになりたいと思って問い合わせをしたものの、申し訳ないが、デスクワークしか経験したことのない私が、それほどの重労働に長期間耐えられるとは思えなかった…。問い合わせに答えさせてしまった農家の方には期待させて申し訳なかった。

季節になると、スタンドが出来てあちこちで販売されるようになるベリー

せめて、確実にできることをしようと思い、貧しい高齢者に食糧を無償提供している近所のチャリティー団体に寄付をしたり、閉店を強いられた飲食店を応援するために、飲食店の販売する(店舗営業再開後に使える)バウチャーを買ったり、デリバリーを頼んだりすることにした。

現在、飲食店はテイクアウトかデリバリーにおいてのみ営業を許可されているので、急にデリバリーを始めたお店や、フルコースメニューを事前予約制でテイクアウト始めた高級レストランなどもある。政府から小規模ビジネスへの一定額の補償はされるが、それでは不十分なので、各店ともキャッシュ集めに奔走している。

潰れて欲しくない、湖沿いのバーのバウチャーを早速購入した。27.5ユーロ払って、30ユーロ分飲食できる

なお、ミシュランスターのついた高級レストランのテイクアウトのフルコースメニューは一人1万円程度で、安い買い物ではない。お店に存続して欲しいので奮発して購入するか、我が家ではまだ家族会議中である…。

どこか寂しそうなウサギたち

このような危機の中で、クリスチャンにとって大事なイースターの週末を迎えている。ドイツには敬虔なクリスチャンも少なくないが、今年は教会での集会が禁止されている。スーパーで大量に売られている、イースターモチーフのウサギのチョコレートもどこか寂しそうである。

駒林 歩美
歴史と緑の豊かな、ドイツ西部の小都市でのんびり暮らすフリーランサー。これまでオランダやイギリスの大学院で学び、東南アジアなどで働き、あちこちで美味しいものを探す。6カ国目のドイツでは、ソーセージなどの肉料理、ドイツパンの美味しさに目覚める。時には新鮮なシーフードを求めて欧州各国を旅するのが好き。