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写真:ZOCO、パチャラン

パチャランとパンプローナ、そしてレアル・マドリード|スペインを食べる。

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ヨーロッパ大陸の西の端に位置するイベリア半島。様々な民族や文化が混在し、海の幸にも山の幸にも恵まれたこの地に立地するスペインの「食」は、すべてが実に豊かで、丁寧に作られ、そして何より圧倒的に美味い。
この国が持つ「食」の実力を、毎回現地からお届けする。

赤と白の服を着た人たちが牛に追われる「牛追い祭り(Encierro)」で有名なパンプローナは、スペイン北部に位置するナバラ地方の州都である。バスク地方の南側に広がるこの地方の公用語の一つは「バスク語」。広い意味では、バスク地方の一部に含まれる。

スペイン全土で18ある地方自治体の中で、ナバラ地方の土地の広さは上から数えて11番目。スペインの中で決して広い地域を占める地方ではない。しかしこの地方、食べることや飲むことに関しては、お隣のバスク地方に負けないくらい豊かな地方なのである。

今回はそんなナバラ地方で生産される、とあるリキュールをご紹介する。

 

写真:パチャラン、ZOCO

とあるスーパーマーケットのパチャランコーナー。左から2番目の大きなペットボトルは3L入りで16.5ユーロ     写真:對馬由佳理

パチャランって何?

ナバラ地方で有名な酒の一つが、パチャラン(Pacharán)と呼ばれるリキュールである。鮮やかな赤い色をしたこのリキュールの主な原料となるのは、スペイン語でエンドリーノ(endrino)と呼ばれるスモモの一種。このフルーツをアニス酒に漬けて、味や香りを移したものがパチャランとなる。

ピレネー地方の麓に位置するナバラ地方は、山のもたらす自然の恵みが豊かな地方である。そして森も多い。エンドリーノもそんな森がもたらす恵みの一つである。

パチャランの歴史は古く、15世紀には文献に登場する。しかし、もともとパチャランは家庭で作られて家庭で消費されるものであっため、その昔はナバラ地方以外でパチャランを知る人はほとんどいなかった。

パチャランが商品としてスペインの市場に流通し始めたのは、1956年のこと。とはいえ、一般に知られるには1980年代になるまで待たなければならなかった。しかし、今ではナバラ地方のパチャランは原産地呼称(Denominación de Origen:DO)を持つ、スペインを代表する酒の一つとなっている。

ちなみにナバラでパチャランを生産する企業は62017年のデーターによると、ナバラ地方で320万リットルのパチャランを生産し、その売上額は約1,900万ユーロにもなる。この地方の重要な産業なのである。

写真:エンドリーノ

エンドリーノの実。パチャランの主原料 写真提供:ソコ・アンブロシオ・べラスコ社

ナバラ出身のサッカー選手が残した遺産

スペインのバールでは、カウンターの奥にたくさんのリキュールやジンの瓶が並んでいるのを目にする。そんな瓶を1本1本よく見てみると、このラベルの瓶が見つかるだろう。

写真:ZOCO、パチャラン

ソコ・アンブロシオ・べラスコ社のパチャラン 写真提供:ソコ・アンブロシオ・べラスコ社

 

ZOCO(ソコ)のラベルで有名なこのパチャランを生産しているのはソコ・アンブロシオ・べラスコ(Zoco-Ambrosio Velasco S.A.)社。ナバラ地方で60年以上の歴史を持つパチャランの生産者である。もともとは家族経営で小規模にパチャランを生産していたメーカーであったが、1960年代から本格的にスペイン全土への販売に踏み切り、今ではスペインで最も有力なパチャランの生産者である。

実はZOCOブランドのパチャランがスペイン全土で販売され始めたほぼ同じ時期、スペイン・フットボール界の銀河系集団レアル・マドリードで、一人のナバラ地方出身の選手が活躍していた。

1960年代から1970年代にかけてのレアル・マドリードは、まさに黄金時代。伝説の名選手アルフレッド・ディ・ステファノ(Alfredo Di Stéfano)を中心としたスペイン最強軍団が1964年のユーロカップを優勝し、ヨーロッパナンバー1に輝いた時代である。その銀河系集団で当時「中盤の壁」として有名だったのが、身長184cm・体重81kgのイグナシオ・ソコ・エスパルザ(Ignacio Zoco Esparza)選手であった。

このサッカー選手のZOCOと、現在「ZOCO」と名付けられたパチャランを販売しているアンブロシオ・べラスコ社の間には何か関係があるのだろうか。疑問に思った筆者が直接アンブシオ・べラスコ社に質問してみたところ、その回答は次のようなものであった。

「実は、当社のZOCOというブランド名(今では会社名の一部)は、イグナシオ・ソコ選手から頂いたものです。というのも、その昔当社の創立者のアンブロシオ・べラスコ氏は、イグナシオ・ソコ選手の家の近くに住んでいましてね。そのため、もともとこの2人は、非常に仲が良かったんです。

そして当社がパチャランをスペイン全土に販売する際、アンブロシオ氏がソコ選手に「君の苗字のZOCOを、うちの製品のブランド名にしたいのだが」とお願いしたところ、ソコ選手が許可してくださったんです。」

自分の苗字を商品に使うことを許した太っ腹なイグナシオ・ソコ選手は、2015年に亡くなっている。しかし、彼の名前はスペインサッカー史の中だけでなく、スペインで最も有名なパチャランのブランドとして、スペイン国内はもちろん国外でもいまだに広く知られているのである。

パチャランの楽しみ方は?

このパチャラン、ナバラ地方では水や炭酸水で割って飲むのが一般的である。また、スパークリングワインで割っても、さわやかな甘さを楽しむことができる。

加えて、牛肉などを焼くときにパチャランを加えて焼くと一風変わった肉料理となる。このようにパチャランは、料理にも幅広く利用できるリキュールである。

また、フルーティーな甘さを生かして、シャーベットなどのデザートにするのにも向いているだろう。

ちなみに、このパチャランをオレンジジュースで割るカクテルがある。その名前は「ハポネサ」。そう、なぜか「日本人女性」という名前のカクテルなのである。この「ハポネサ」は甘く飲みやすいカクテルではあるが、パチャランのアルコールはなんと25%~30%。飲みすぎには気を付けたほうが良いかもしれない。