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画像:バスク

【訪問レポート】スペイン・サンセバスチャンの料理「大学」では、料理人はキャリアの選択肢の1つでしかない|スペインを食べる。

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ヨーロッパ大陸の西の端に位置するイベリア半島。様々な民族や文化が混在し、海の幸にも山の幸にも恵まれたこの地に立地するスペインの「食」は、すべてが実に豊かで、丁寧に作られ、そして何より圧倒的に美味い。この国が持つ「食」の実力を、毎回現地からお届けする。
今回は美食の街として世界的名高いサンセバスチャンにある、「料理」の学位を取得することの出来る大学「Basque Culinary Center(バスク・クリーナリー・センター)」を訪問。設立の背景にある思想や、実際の学校生活について取材を行った。

前回の記事では、BCCがサンセバスチャンの地に生まれた背景についてご紹介したが、今回は生徒たちが実際にどのように食を学び、どのようなキャリアに進んでいくのか、BCCのマイデル・ハウレギ(Maider Jauregi)氏にお話を伺った。

学生の75%はスペイン国内から

画像‐キッチン

明るい光が入るキッチン。写真:對馬由佳理

「毎年100人近くの学生がBCCに入学します。全体の約75%がスペイン人学生で、そのうち3割ほどが地元バスク地方出身です。海外からの学生は毎年25%ぐらいで、昨年は世界37カ国からの学生がBCCに入学しました。」と、マイデル氏が話す。

通常であれば日本学生も毎年1人か2人はBCCに入学する。しかし、「今年は新型コロナウイルスの影響で、入学した日本人学生が誰もいなかったんです。少し寂しいですね。」

学生の男女比は、男性59%に対し女性41%。「年々女性の入学者の比率が高くなっていることが特徴です」とも語る。

ちなみに、BCCは筆者のような大学の見学者も積極的に受け入れており、昨年だけで約1万人がBCCを見学に訪れたという。「日本からも頻繁に見学に来ていただいてます。最近は奈良県知事をお迎えしたこともありました。」

3年目からコース別に分かれて学ぶ

画像-授業中

教室での授業中。写真:對馬由佳理

前回の記事で触れたとおり、料理に関わることを多様な授業を通して体系的に学ぶことを特徴としているBCC。その分、学生の勉強する内容も広範囲に渡る。そこからBCCの学生生活はかなりハードなものであろうことが、前回までのマイデル氏の話から予想できた。

「確かにBCCでの学生生活はかなりハードです。授業と実習の繰り返しが毎日続きますし、特に実習になると2~3時間は立ちっぱしですから、体力的にかなりきついかもしれません。でも、この学校で4年間学ぶことは、きっと将来の役に立ちますよ。」

大学の1年目と2年目は、料理の基本的を学ぶ時期としてBCCは位置づけている。実習もパンやケーキを焼くこともあれば、魚や肉をさばくこともあるという、非常にバラエティに富んだ内容となっている。

その一方で学生たちは3年目から、調理師養成・レストラン経営・食品産業スペシャリスト養成等の中から自分の希望するコースを選択し、各自のスケジュールで学ぶことになる。BCCの3年目と4年目は、料理の世界における何らかのスペシャリストになるための能力を磨くための期間となる。

ちなみに、BCCの授業で使われる言葉はスペイン語か英語で、バスク語は授業で使われることはほとんどないとのこと。こうしたことも日本人をはじめとする外国人の学生には嬉しい配慮だろう。

1年目からレストランでの実習義務あり。日本は人気の実習先。

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校舎の最上階にあるレストランでは、学生たちが実習中。写真:對馬由佳理

またマイデル氏は、BCCの授業の特徴のひとつとして、大学1年目から学校外の企業やレストランでの実習を義務付けていることを挙げる。

「BCCの学生たちは、毎年レストランあるいは料理に関する企業へ実習に行きます。特に、調理師やレストランの現場での勤務を希望している学生にとって、この校外実習の期間はとても重要なものなんです。

学生の実習先についても、大雑把な目安ではあるのですが、BCC独自の基準があります。例えば料理人を目指す学生の実習先として、1年目はスペイン国内のどのレストランでも実習できます。でも、2年目はミシュランの星1つ以上の店、3年目はミシュランの星2つ以上の店で働く必要があります。そして、4年目は自分の好きな国のレストランで実習します。

実はこの4年目の実習先として、日本を選ぶ学生が毎年複数いるんです。料理人を目指す人が日本にあるレストランで実習することもありますし、食品産業スペシャリストコースの学生が日本の食品企業で働くこともあります。」

どうやらBCCで料理を学ぶ学生にとって、日本は非常に興味深い国のひとつのようである。

BCCと日本との深い関係

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ワインやオリーブオイルなどのテイスティングの授業をする教室。写真:對馬由佳理

BCCが設立されたのは、わずか約11年前。非常に若い大学であるが、意外と日本との関係は深い。

「まず、BCCで学ぶ学生は、3年目からヨーロッパ以外の料理も学ぶための短期集中コースを受講します。その中で、「アジア料理」というカテゴリーの一部としてですが、学生たちが日本料理を学ぶ機会があります。そのため、日本人シェフがBCCで授業や講演をすることも珍しくありません。また、BCCの学生に奨学金を出してくださっている日本企業もあるんですよ。」

また、マイデル氏によると、日本で開催される料理のコンクールにBCCの学生が参加することも珍しくないという。

卒業生の進路は

画像‐ケータリング

ケータリングの実習をするキッチンもある。写真:對馬由佳理

BCCでは、多角的にそして体系的に「料理」に関して学ぶことができる。その結果として、「料理」を主軸とした幅広い業界で卒業生が活躍していることは、驚くべきことではないのかもしれない。

「BCCの卒業生の進路としては、すでにミシュランの一つ星を獲得した現役シェフもいます。スペインをはじめとするヨーロッパのレストランで給仕長やソムリエをしている卒業生もいますね。

卒業後、自力で起業した人もいます。また、食料品の輸出入のマーケティングに関わる卒業生も多いです。あとはケータリングの実習の経験を生かして、航空会社に就職して機内食の開発を担当している卒業生もいますね。『料理』に関する業務であれば、どのような業界でもBCCの卒業生は対応できると思いますよ。」とマイデル氏は話した。

ヨーロッパで最初に「料理」を学ぶ大学となったBCC。様々な側面から学ぶ「料理」は、将来は地域や国の枠を超えて活躍をしたいと考える人にとって、強力な武器になるのかもしれない、そう思いながらBCCの校舎をあとにした筆者であった。