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ハビエルさんと巡るカスティーリャ・イ・レオンの食 ①|スペインを食べる。

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イベリア半島の中央部に広がるメセタ台地。その西側に位置するのがカスティーリャ・イ・レオン地方である。9つの県によって構成され、約240万人が暮らしている。この地方は焼く94,000㎢という、スペインで最も広大な土地を有する地方である。恐竜の化石が見つかるほど古代から続くこの土地には、セゴビアの水道橋からもわかる通り、その昔はローマ人が進出してきた歴史もある土地である。

11世紀には現在のレオン地方に王家が誕生し、現在のポルトガルやガリシア地方までを領土とする大帝国を作り上げた。そして長い間、「スペイン」というと、このレオンの王家が治めていた土地を意味する時代があった。つまり、カスティーリャ・イ・レオン地方は「スペイン」の源流なのである。

そして1469年、この地方を治めていた女王イザベル1世は、当時イベリア半島で強大な勢力を誇っていたアラゴン国王のフェルナンド2世と結婚する。この結婚により、イベリア半島の政治的統合が進み、現在のスペインの基礎が形作られるようになったのである。

そのように多様な自然とスペインの源流となる歴史を持つこの地方のグルメについて、スペインの新聞EL MUNDOがカスティーリャ・イ・レオン地方で毎週発行する日曜版のコラムニストであると同時に、同地方のTV局に番組を持ちカスティーリャ・イ・レオン地方のワインやグルメについて30年以上前から様々な媒体で情報を発信してきた、ハビエル・ペレス・アンドレス(Javier Pérez Andrés)さんにたっぷりと語っていただいた。

ハビエル・ペレス・アンドレスさん 写真提供 ARGI Comunicación y Ediciones CyL S.L.

食べるべきは、肉の炭火焼き(カルネ・アサード)・ハモン(生ハム)・チーズ

― まずはじめに、日本人に「カスティーリャ・イ・レオン地方を訪れたら、これを食べるべき」というものをいくつか教えていただけますか?

「この地域は牧畜が主要な産業なので、まず、牛・羊・豚を中心とした肉類ですね。豚肉はイベリコハムが有名なので日本でもよく知られていますが、牛もこの地方のモルーチャ(Morucha)種などは原産地呼称(Denominación de origen:略称D.O.)*を持っていて、おいしいところなんです。」

「そしてこの地方の羊の数はスペインの中でもトップクラスなんです。なので、そうした家畜の乳から生産するチーズの種類も豊富ですね。」

羊もカスティーリャ・イ・レオン名物の一つ

「そして、この地域は豆類の生産が盛んな地域でもあるんです。カスティーリャ・イ・レオン地方だけで20種類以上の豆類が栽培されています。また、山が多くて森林が豊かな地域でもあるので、木の実やきのこが有名な場所でもあるんです。イベリア半島特有の松の実の有力な産地ですし、秋になると栗も多量に収穫されます。そしてアーモンドも生産されているんですが、アーモンドの花は毎年春に、ちょうど桜のような花が咲くんですね。なので最近は春に、「アーモンドの花見祭り」を開催する市町村も多いです。ちょうど日本の「お花見」みたいなもんですね。」

アーモンドの花

「そういうわけで、日本人の方がカスティーリャ・イ・レオン地方のレストランに入ったら、肉の炭火焼き(カルネ・アサード)・ハモン(生ハム)・チーズの3皿をオーダーしておけば、まずおいしいものを食べることができるでしょう。秋だったら、きのこの炒め物なんかも注文しておけば十分です。」

カルネ・アサードとはこのようなもの

「あと、この地方はワインの種類も豊富なので、レストランで地元のワインをください、と頼んでおけば間違いないでしょう。」

* 原産地呼称(Denominación de Origen)
「特定地域内で、規定で定められた手順によって生産されたものである」ことを示す証明のようなもの。原産地呼称統制委員会(Consejo Regulador)という機関の元で審査が行われている。もともとはワインの生産地や品質を管理するためのものであったが、現在のスペインではチーズやパンなど他の食品にも適用されている。

キリスト教の影響で盛んになったワインづくり

― そうしたカスティーリャ・イ・レオン地方の名産物は、この地域の歴史的・地理的条件を反映したものであろうと思うのですが。

「実はこうしたカスティーリャ・イ・レオン地方の食は、ヨーロッパの中世の時代とほとんど同じものなんです。その頃から肉類も豆類もチーズもこの地方で食べられていました。とは言え、たとえば豆類はアラブ文化からもたらされたものです。また、ワインはこの地方では昔から「必要不可欠な食料品」として扱われてきましたが、その背景にあるのは、「サンティアゴ巡礼」のルートです。」

「サンティアゴ巡礼は、ヨーロッパでキリスト教を布教していた聖ヤコブ(スペイン語ではサンティアゴ)の遺体が埋葬されているガリシア地方のサンティアゴ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)へと向かう旅です。このサンティアゴ巡礼には代表的なルートが4つあり、そのうちの2つのルートがカスティーリャ・イ・レオン地方を通ることから、キリスト教の影響が非常に強く、キリスト教に不可欠なワイン生産が盛んになったんですね。」

「自然地理的な面では、カスティーリャ・イ・レオン地方は四方を山で囲まれた盆地で、特に北部や東部は山岳地帯です。そして、盆地の真ん中は比較的平坦な土地が広がっています。そのため、例えば、夏には盆地の中は気温が高いんですが、山岳のほうに行くとそれなりに気温も下がります。こうした「気候の多用性」は、ぶどうの種類の多様性を生みますし、結果としてワインの産地の多様性を生む理由になります。」

9つの県、9つの食文化

― 確かにカスティーリャ・イ・レオン地方はスペインの中でも最も広大な土地なので、この地域の気候が多様性にわたることは理解できます。では、そのカスティーリャ・イ・レオン地方の9の県の「食」の特徴を教えていただけますか。

まず、バヤドリッド(Valladolid)県からはじめましょう。この県は基本的に牧畜地域なので、ウサギの肉やLechazoと呼ばれる子羊の焼いたものがおいしいです。またチーズの種類も多く、カタツムリの産地でもあります。また、バヤドリッド県はワインの産地としても有名で、5種類の原産地呼称のワインが集中している街なんです。」

「パレンシア県(Palencia)はカスティーリャ・イ・レオン地方の中でも山岳地域です。なので、木の実やきのこのおいしい地域です。また、豆類も豊富です。」

「レオン県(León)は北部に位置し、隣はアストリアス地方とガリシア地方です。基本的に山岳地域ですが、川も湖も平地もある地理的に多様性の高い地域です。豆類や栗をはじめとするフルーツ類が豊富な地域です。トルーチャ(trucha)という川魚の料理が有名なところでもあります。また、小さな町ですがアストルガ(Astorga)という町にはコシード・マラガート(Cocido maragato)という料理で有名です。コシード自体はスペイン各地で見られるもので、肉とヒヨコマメ、そしてジャガイモやにんじんを煮込んだ料理です。」

「また、このアストルガはヨーロッパでも初期にチョコレート工場ができた場所なんです。19世紀から20世紀にカスティーリャ・イ・レオン地方でチョコレート産業が発達して、最盛期にはサモーラのあたりまで工場が建設されました。その後この産業は衰退しましたが、アストリアスの工場が最後まで残りました。だからアストルガの名物土産はチョコレートなんです。」

川魚のトルーチャ料理

「そして、サモーラ(Zamora)県も自然環境の面では山も川も湖もある、自然豊かな地域です。何より有名なのは原産地呼称を持っているトロ(Toro)のワインでしょう。そして、この地域は小麦も取れる場所なので、パンが有名なんですよ。そして、牛などの赤肉やチョリソーなどのエンブティード(embutido)もおいしいところですね。そして、有名なのがアロス・サモラーノ(arroz zamorano)。この地域に伝わる米料理で、羊の足先と甘い赤ピーマン、そして米を炊いた料理です。このアロス・サモラーノは日本人にも食べやすいものだと思います。」

「ソリア(Soria)県は、森の地域です。そしてこの地域で有名なのが、きのこ類。秋になるとソリアは、スペインのきのこ産業の一大拠点になります。なので、ソリアに行くなら秋口がいいでしょうね。」

「ブルゴス(Burgos)県はサンティアゴ巡礼の拠点となる町のひとつです。ここで有名なのはモルシーリャ(Morcilla)という豚の血と米が入ったソーセージとフレッシュ・チーズ。特にチーズに関しては、「ブルゴスのチーズ(Queso de Burgos)」と言えば、ほぼ自動的にフレッシュ・チーズを意味するほどスペインでポピュラーなものです。ちなみに、この地域の北側では馬肉も食べられます。」

モルシーリャを使った料理

「サラマンカ(Salamanca)県は、なんと言ってもハモンの一大産地。南にあるギフエロ(Guijuelo)の町が一大産地です。とはいっても、サラマンカ市内でもおいしいハモンは食べられますので、ご安心を。あと、サラマンカ近郊にあるシエラ・デ・フランシア(Sierra de Francia)はちょっとした山岳地帯で木の実やフルーツが収穫されます。」

サラマンカは生ハムの代表的な産地

「アビラ(Avila)県は、なんと言っても牛肉ですね。赤身の肉はぜひアビラで食べたほうが良いでしょう。また、お菓子のイエマス・デ・サンタ・テレサ(Yemas de Santa Teresa)は卵の黄身のお菓子です。甘いものが好きな方はぜひ。」

「セゴビア(Segovia)県はローマ時代に建設された水道橋で有名ですが、その橋の足元にあるレストランで、有名なのがコチニーリョ(Cochinillo)と呼ばれる子豚の丸焼き。ここで食べられる子豚は、まだお母さんのおっぱいを飲んでいるくらい小さな子豚です。もともとこの地域で頻繁に食べられていたものではあったのですが、コチニーリョを世界的に有名にしたのは、セゴビアのレストランのオーナーだったクラウディオ・ロペスと言う人物のパフォーマンスでした。コチニーリョのやわらかさをお客さんに見せるために、焼きたての肉をお皿で切るというパフォーマンスで、この地域のコチニーリョを世界的に有名にしたんですね。彼の銅像が、セゴビア市内にありますよ。」

コチニーリョは子豚の丸焼き

(次回に続く)

ハビエル・ペレス・アンドレス (Javier Pérez Andrés)
新聞記者。カスティーリャ・イ・レオン地方のワインやグルメについて30年以上前から様々な媒体で発信してきた、この分野の第一人者。スペインの新聞EL MUNDOがカスティーリャ・イ・レオン地方で毎週発行する日曜版のコラムニストであると同時に、同地方のTV局に番組をもつ人物である。