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「食べる」

西荻窪の夜は「をかしや」で、日本酒と練り切りでシメる。

西荻窪駅南口を出て、佇まいの良い飲み屋を何軒もやり過ごし、歩くこと数分。
ひっそりとした路地に、できたての和菓子を楽しめる居酒屋「をかしや」がある。お店を1人で切り盛りしているのは、和菓子職人出身の戸辺麻理子さん。

日本酒を燗する台があったり、美味しそうなおつまみメニューが並ぶカウンターのみの趣ある店内では、練り切りや大福をはじめとした季節の和菓子を戸辺さんが目の前で仕上げてくれる。

その鮮やかな手さばきを目で楽しみ、できたての味を舌で楽しむために、和菓子好きな人はもちろん、日本文化に興味のある外国人、普段和菓子に馴染みのない若い世代や近所の人々まで、様々なお客さんが来店するという。

明るい雰囲気で質問に答えてくれる戸辺さん

明るい雰囲気で質問に答えてくれる戸辺さん

小さい時から”作ること”が好きだった 

「小学生の時から図工がすごく好きだったんです。とにかく何かを作ることが好きでした。その頃から、クッキーやケーキとかの洋菓子は作ってたんですけど、和菓子ってどう作るかの想像が全然できなくて。たまたまデパートに出店していた近所の和菓子屋さんで練り切りに出会った時に、どうやってできてるんだろう、自分で作れたら楽しいだろうな、と思いました。それが和菓子に興味をもったきっかけですね。」

岡山の木型職人の元で作ってきたという菓子切り。

岡山の木型職人の元で作ってきたという菓子切り。

調理科のある地元の高校を卒業後、和菓子の専門学校で学んだ。その後、最初に和菓子に興味を持つきっかけをくれた地元の和菓子屋さんに就職。製造から始まり、支店長としてシフトや売り上げの管理、商品ディスプレイなど和菓子屋の業務にまつわるあらゆることを任されるようになるが、徐々に経営が傾き始め、お店から離れることに。

その後上京し、青山や代官山に店舗を構える和菓子屋に就職するが、「飽き性な性格なので毎日同じものを販売する生活が向かなかったですね」と戸辺さんはいう。

その後は通っていた専門学校の紹介で、都内の短大で和菓子の授業の助手として6年ほど働いた。

「和菓子職人として働いていた期間よりも大学で助手をしていた期間の方が長くて。その間、個人的に注文を受けることがあれば、ほぼ原価で和菓子を作っていました。」

「私、日本酒が飲めるようになったのが26くらいからなんです。
いろんな個人店を回るようになって、そこで顔見知りになったお客さんからイベントで提供する和菓子のオーダーを受けたり。あとは、西荻で贔屓にしていたお店のデザート担当の人がぎっくり腰になっちゃって、代わりに作ったりとかもありましたね。
『をかしや』の屋号は、その頃から使っています。」

和菓子屋さんをやりたくなかった

「とにかく和菓子屋さんをやりたくなかったんです。
和菓子屋さんって桜餅、豆大福、団子なんかを毎日作って毎日売るけど、お餅やあんこは生物なので売れ残った分は廃棄になってしまう。自分のつくったものが無駄になるの嫌だなあって。毎日同じものを作るのも飽きっぽいから向いてないだろうと。」

短大の助手をやめたタイミングで次のあり方を模索している時、散歩の途中で今のをかしやの物件に出会った。当時住んでいた家からなんと徒歩15秒の立地。
立地に加え、価格や佇まい、タイミング等、全ての巡り合わせで物件を借りることを決心した。

可愛らしい趣のある外装。

看板フクロウの「ちょび」がお出迎え。

看板フクロウの「ちょび」がお出迎え。

「飲み屋さんのいいところは、肩書きや年齢の分からない人とお喋りできるところだと思っています。毎日違う人が来て、違う人同士で話して……」

「和菓子をその場で作ることにしたのは、やっぱり出来立てのものが美味しいってことと、私が最初に練り切りをみてワクワクした気持ちをお客さんにも味わってもらうことができると思ったからですね。」

出来立ての練り切りの特別なおいしさ

練り切りは白あん、水飴、求肥(もしくは大和芋)の三種類の原料からできている。
その割合や、水分量の微妙な違いが味わいの大きな差に繋がるんだとか。

「出来たてが美味しいのは水分量を多めに、柔らかく作れるからなんです。
練り切り好きな人でも、今まで食べた練り切りのなかで一番美味しい!と言ってくれます。」

市販されている練り切りは、中のあんこが外側の練り切りに合わせて硬めに作られている。あんこの水分が浸透圧で外側に出てきて形が崩れたり、日持ちが悪くなってしまうのを防ぐためだ。一方、をかしやの練り切りは作ったらすぐ食べてもらうため、水分量を少なめにする必要がない。
よって、口どけの良い美味しい練り切りが味わえるのだ。

真剣な眼差しで成形する戸辺さん。

紅白の練り切りと桜の葉を練りこんだあんこ玉。

この日作ってもらったのは、春にぴったりな桜の形。

この日作ってもらったのは、春にぴったりな桜の形。

特製の菓子切りと一緒に。

ちなみに、お店では練り切りの体験教室も行っていて、作ったものをお土産として持ち帰ることもできる。

をかしやのインスタグラムより

和菓子にも鮮度があり、出来立てが美味しいということを実感させられる、戸辺さんがつくる練り切りや大福。甘さが抑えられたその味は、日本酒とも良く合う。和菓子と日本酒が好きで、飽き性という戸辺さんがつくりあげた「をかしや」は、和菓子の新しい楽しみ方を教えてくれる、唯一無二の居酒屋だった。

をかしや
住所:東京都杉並区西荻南2-24-2
定休日:不定休(2020年9月からは日曜日定休となる予定)
営業時間:19:00-22:00(2020年9月からは19:00-24:00となる予定)
URL: https://www.facebook.com/kimagre.ekbo.wagashi/

文・写真: 郷田彩巴

※本取材は新型コロナウイルス対策に伴う緊急事態宣言発令前に実施しております