ティーカップのソーサーは、お茶を注いで冷ますためのもの|食の雑学ノート
お茶文化の始まりは、紀元前2700年頃の中国。大航海時代にヨーロッパへともたらされ、17~18世紀、王侯貴族たちの間で「富と権力の象徴」としてお茶※1が普及したのだが、その広がりと共にティーカップの歴史も始まった。
お茶が伝わった当初、ヨーロッパ周辺諸国に磁器※2を作る技術はなく、王侯貴族たちは中国や日本から輸入した把手(持ち手)のない茶碗でお茶を楽しんでいた。この茶碗は「ティーボウル」と呼ばれ、まるでスープ皿のような深めのソーサー(受け皿)とセット。というのも、中国より伝わったのは茶碗のみであったが、カップから直接飲むことを下品と考えたイギリス王侯貴族の依頼により、ソーサーとセットで作られるようになったという。当時のヨーロッパでは、ティーボウルに注がれた熱い紅茶をソーサーに注いで、冷ましてから飲むスタイルが正式な礼儀作法だったのだ。
やがてヨーロッパでも磁器の生産が始まって※3、18世紀の終わり頃には熱いお茶でも飲みやすい把手付きティーカップが主流になる。茶碗からソーサーに注いで飲む作法はだんだんと風化したが、ソーサーの存在はそのまま残り・・・。現在のような浅く平らな姿に変わっても、ソーサーはティーカップの下で、優雅なお茶の時間を支え続けているのである。
※1 当初中国から伝わったのは、緑茶。後に紅茶が誕生し、その風味がヨーロッパで、特にイギリスでは非常に好まれて、上流階級の間で嗜好品としてもてはやされるようになった
※2 白色粘土にガラス質の長石、珪石を加えたものや、陶石を素材とした焼きもののこと。ガラス成分を多く含むため薄手でも硬く、叩くと金属音を発するのが特徴。素地の色が白く滑らかな質感なので、鮮やかな色絵が映える。日本の代表的なものは有田・伊万里焼や京焼、砥部焼など
※3 ヨーロッパで初めて磁器の生産に成功したのは、1709年、ドイツの名窯「MEISSEN(マイセン)」
参考
・「ソーサー本来の使い方とは」 COFFEEMECCA
・「コーヒーカップの皿(ソーサー)の意味や役割とは」 十五代臥牛窯