世にも奇妙なる美味「トリュフ」の歴史を紐解く!|食の起源
世界三大珍味の一翼をなす「トリュフ」。
その独特の芳香は、秋の豊饒を想起させるマジックを有している。
非常に高価なことで知られるトリュフは、消費者である我々には幸いにして、昨年から価格が下がっている。
実はこのトリュフ、古代にはその存在が確認されている歴史上のロングセラーなのである。
古代ギリシアの歴史家も古代ローマの博物学者も言及!
トリュフは、キノコの一種である。
その独特の香りは、なにものにも代えがたい魅力がある。
ギリシアの歴史家プルタルコスや、ローマの博物学者プリニウスによっても言及されたトリュフ、じつは紀元前の時代から人々が食していたともいわれている。バビロニアでもメソポタミアでもエトルリアにも、トリュフが存在していたという学者が多いのである
ちなみに、われわれが使う「トリュフ」という言葉は、ラテン語の「terrae tufer」から派生している。ギリシアには、最高神ゼウスが怒ってはなった稲妻がブナの木のもとに落ち、トリュフとなったという愉しい言い伝えもある。ゼウスは、神話の中では浮気ばかりしている神様である。
そのゼウスにゆかりのあるトリュフは、当時から「媚薬」の効能があるといわれてきた。これについては、ギリシアの誉れ高き医学者ガレノスも「快楽を堪能できるエネルギー源」と記しているほどである。
悪魔の食べ物として敬遠された中世
古代から希少性の高い高級品であったトリュフであるが、中世にはなぜか影が薄くなる。
それは、キリスト教会によってトリュフを食べることが禁止されたためである。「媚薬」として有名になってしまったトリュフは悪魔に属する食べ物とされていたため、中世の森ではトリュフは狼や猪や熊に独占されていたのである。中世の人々は、トリュフは毒蛇の巣に育ち、動物の死体や錆びた鉄を養分に育つと信じていたというから面白い。
王侯貴族の卓上で輝くトリュフ
このトリュフが再び脚光を浴びるのは、ルネサンスの時代になってからである。
中世の迷信が180度ひっくりかえり、トリュフは王侯貴族の食卓で主役級の扱いを受けるようになる。
とくに、16世紀にカトリーヌ・ド・メディシスがイタリアのフィレンツェからフランスにお輿入れしたさい、トスカーナ産の白トリュフを持ち込んだことがフランスでのブームに火をつけたといわれている。18世紀には、ヨーロッパ各地の宮廷でトリュフは珍重されるようになる。フランスでは特に、黒いトリュフが愛され、イタリアでは白トリュフの消費が高かった。現在もトリュフは、高名なシェフたちが特に好む食材のひとつとなっているのである。
古代から現代まで、トリュフのレシピいろいろ
それでは、人々はどのようにしてトリュフを食べてきたのであろうか。
トリュフのレシピが最初に登場するのは、古代ローマのレシピ『アピシウス』である。
それによると、薄く切ったトリュフを軽くゆでて串にさしてグリルにしている。これに、ワインや胡椒、蜂蜜を混ぜたソースをかけて食べていたのだそうだ。当時のトリュフは、あぶって食べることが多かったという。
また、ルネサンス時代のカリスマシェフというべきバルトロメオ・スカッピは、白いトリュフは生で食卓に供している。塩と胡椒、または柑橘類のソースを添えて、というからモダンではないか。いっぽう、黒いトリュフは火を通してスープにしたレシピが残る。白トリュフは生で、黒トリュフは火を通して、というこのスカッピの原則は、現在も変わらない。
また、近代イタリア料理の父と呼ばれるペッレグリーノ・アルトゥージは、トリュフとバターとの組み合わせが良いと言及している。
いったいいくら払えばトリュフは食べられるの?
トリュフの料理は、秋の風物詩である。
筆者が住むイタリアでも、トリュフはレストランの年中定番メニューではなく、季節限定「今日のメニュー」に登場することが多い。給仕が、「今日は白トリュフのパスタがありますよ」と教えてくれたら、ずばり「おいくらですか?」と聞くのが無難である。たいていは、「一皿30ユーロです」とか「計り売りになります」という答えが返ってくる。
量り売りの場合は、パスタと一緒にトリュフの小さな計量器が運ばれてくる。パスタに削った分をグラム単位ではかり、後でお金を払うことになる。
イタリアには、「アグリトゥーリズモ」という酪農家が経営する民宿が存在する。山の中にあるこうしたアグリトゥーリズモでは、トリュフ探しの犬を飼っている。この犬が探し出したトリュフを、夕食に提供してくれる。この場合は、かなり威勢よくトリュフを料理に投入してくれるので、価格も気にすることなく心ゆくまでトリュフを楽しめるのである。
ちなみに、2019年の白トリュフの相場は1キロ当たり2,000ユーロ。昨年から相場は下落気味で、3年前の半額にることもある。
日本では2001年から輸入が増大
キノコ類が多く生息する日本にも、実はトリュフが存在するといわれている。
しかしその芳香が、日本人のあいだでは元来あまり好まれず、和食には使用されることがなかった。
輸入物のトリュフは、2001年から量が増大し年間15トンを超えるようになった。
イタリアでは秋の風物詩であるトリュフは、日本には12月ごろに到着することが多い。クリスマスシーズンの贅沢品といったところだろう。
イラスト:おにぎりまん
イタリアの片田舎で書籍に埋もれて過ごす主婦。イタリアに住むことすでに十数年、計画性なく思い立ったが吉日で風のように旅行をするのが趣味。美術と食文化がもっぱらの関心ごとで、これらの話題の書籍となると大散財する傾向にあり。食材はすべて青空市場で買い込むため、旬のものしか口にしない素朴な食生活を愛す。クーリエ・ジャポン、学研ゲットナビ、ディスカバリーチャンネルなど寄稿多数。