イタリアから直送される原材料から、モッツアレラとブッラータはこうやって作られる
2018年に東京・南青山にオープンした「MuMu MOZZARELLA」(ムームーモッツアレラ)は、モッツアレラとブッラータを専門としたチーズ工房だ。本場のイタリアから仕入れた原料を使って日々フレッシュなチーズを製造している。
運営者である高波利幸さんに話を伺った前回の記事ではこれまでの足跡を辿りながら、チーズにかける想いを伺った。
イタリアのチーズの味を日本で再現する澤中さん
イタリア本場の味の再現を目指して、東京の工房ではどのようにモッツアレラとブッラータを作っているのだろうか。
チーズ工房が併設されているイタリアレストラン「イル・パチョッコーネ・カゼイフィーチョ」で店長を務める澤中諒さんに、こだわりのモッツアレラとブッラータの作り方を伺った。
イタリアと同じブルーナ・アルピーナ種のミルクを使う
澤中さんが特にこだわっているのは、チーズの原材料と製造方法だ。
ミルクはブルーナ・アルピーナと呼ばれる乳牛のものを使用。豊かなイタリアの自然のもと牧草飼料のみで飼育される特別な牛のミルクで、その名を名乗るために厳しい認証基準をクリアする必要のあるイタリアチーズの王様・パルミジャーノ・レッジャーノにも使用されているミルクだ。
職人と自然が育む特別なチーズには、特別な牛のミルクが欠かせない。
製造方法は「コンパクト・モッツアレラ製造システム」と呼ばれる工程を採用。チーズの原料となる「カード」と呼ばれる牛乳の固形分と、専用のマシーンを使用すれば、誰でもというわけにはいかないが、比較的簡単にいつでも美味しいフレッシュなチーズが生産できる仕組みだ。
イタリア本場仕込みのモッツアレラの作り方
イタリアの南部カンパニア州のサレルノが発祥と言われているモッツアレラ。「引きちぎる」という意味をもち、弾力のあるぷりぷりとした歯ごたえが特徴だ。澤中さんは原料である牛乳の固形分「カード」をほぐす作業から、モッツァレラ作りを始める。
「わたしたちは牛乳そのものではなく、カードをイタリアから冷凍で輸入して、モッツアレラを生産しています。カードとはチーズのもとになる重要な原材料です。牛の胃袋からとれるレンネットという成分が入っており、液体を固める働きがあります」
「すべてのチーズはカード選びから始まると言えるほど、出来上がりを決める大切な原料です。その後どのように加工するかによって、チーズの種類が変わっていきます」
カードを使用しているものをチーズと定義付けると、面白い発見もある。
「実はリコッタにはカードが使用されていません。ホエーと呼ばれる水分を煮詰めて生産されています。そのため厳密に言うと、リコッタはチーズの一種ではないとも捉えられますね」
専用の機械でカードを撹拌する
カードを丁寧にほぐした後は、材料を練り上げる作業に移る。カードと塩水を一緒に機械に投入し、撹拌をゆっくりと進める。塩はチーズ本来の味を損ねないように、塩味の強すぎないものを使用。澤中さんは乳化安定剤などの保存料を一切入れていない。
大きめのモッツアレラはしっかりとした食べ応えがある
「機械の中は約60度の温度に保たれており、材料をしっかりと練り上げていきます。私たちは1つ150gの大きさのモッツアレラを製造しています。日本ではもう一回り小さいものが一般的ですね」
練り上がった材料はモッツアレラの形になって、機械から次々と押し出されていく。その後乳酸と塩が入った水で3時間ほど寝かして完成だ。
「出来立てのモッツアレラは形が崩れやすいので、きちんと形を安定させて風味をつけるためにゆっくりと寝かせています」
「機械に任せてばかりではなく、出来上がったモッツアレラをひとつひとつ手で触るのも私たちの大事な作業です。チーズの状態を細かく確認します。手でちぎれるほど柔らかすぎるものはダメ。繊維が感じられるくらいがベストな状態ですね」
濃厚なストラッチャテッラが溢れ出る、ブッラータの作り方
イタリア語で「バターのような」という意味をもつブッラータ。繊維状にカットしたモッツアレラと生クリームを、モッツアレラの生地で巾着状に包んだチーズだ。時間が経つほどに食感が変化する繊細な食材で鮮度管理が難しく、流通量も少ない。
澤中さんはブッラータチーズの中身「ストラッチャテッラ」作りから手がけている。まずはモッツァレラを細く割いたものと、生クリームを丁寧に混ぜ合わせる。こうして濃厚なストラッチャテッラが出来上がったら、薄く伸ばしたモッツアレラチーズで丁寧に周りを包む。
手のひらほどのサイズに分けたモッツァレラを薄く伸ばし、中にストラッチャテッラを入れ、空気を扱うように優しく包み込む。力加減やタイミングなど技量が問われる、重要な作業だ。
最後に上部を縛ってブッラータの完成。素材や製造方法へのこだわりから生まれる濃厚で芳醇な味は、イタリア本場のチーズに引けを取らない。
鮮度が命と言われるブッラータ
時間が経つほどに食感が変化するというブッラータは、パスタやフレッシュフルーツなどとの相性が抜群。まさに無限とも言えるほど、味の組み合わせを楽しめるチーズなのだ。
人の手が加わるからこそ味わえるチーズの美味しさ
チーズを製造する工程は、機械ですべてが自動化されているというわけではない。
「機械はあくまで人間の手の代わりをしているというスタンスで、私たちはチーズ作りに取り組んでいます。イタリア人から学んだのは、チーズは工業製品ではないということ。すべての工程を機械で仕上げるのと、人の手で作り上げるのとでは、やはり食感や風味が少しづつ違ってきます」
「イタリアからカードを輸入して専用の機械でチーズを製造しているのは、日本で私たちしかいないと思います。ミルクも日本の乳牛と品種が違うので、美味しさや風味が違いますね」
イタリア本場の味と鮮度にこだわり、フレッシュなチーズ作りに励む澤中さん。鮮度が命と呼ばれるモッツアレラとブッラータは、作りたてのタイミングにしか出会えない美味しさがある。
MuMu MOZZARELLA 東京モッツアレラ工房 南青山店
住所:東京都港区南青山6-15-8
電話:03-5468-0555
URL: https://mumu-mozzarella.com/
写真:村山康則
ライター、編集者。バングラデシュ、東京、宮城など複数の拠点で生活を送る。海外旅行に行く際はローカルマーケットと地元の食堂散策が欠かせない。トマトとナスとチーズが大好物。