ハビエルさんと巡るカスティーリャ・イ・レオンの食 ②|スペインを食べる。
スペインのカスティーリャ・イ・レオン地方の食について、この分野のエキスパートのハビエル・ペレス・アンドレス氏と話すこの企画。第2回目となる今回は、スペイン人たちにとって特別なセマナサンタ(聖週間)と食との関係について。この地方において、料理とキリスト教とは強い結びつきがあるようだ(カスティーリャ・イ・レオン内の9つの県それぞれの名物料理等を伺った、第1回記事はこちら)。
セマナサンタ(聖週間)とは何か
―カスティーリャ・イ・レオン地方で特別なときに食べる、代表的な料理はどのようなものになりますか。
キリスト教の国では「特別な時」というと、どうしてもナビダッド(クリスマス)とセマナサンタ(日本語訳では聖週間。英語のイースターにあたる)の2つになってしまうんですね。そして、食べ物についてみると、セマナサンタの方が特別ですね。
セマナサンタは、簡単に説明すると、キリストが十字架に磔にされるまでの最後の1週間を再演するお祭りです。そして、毎年の「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」にキリストの復活が祝われるように、日程が調整されています。なので、毎年お祭りの日付は変わります。
そしてセマナサンタの象徴になるのが、プロセシオンという、教会にあるキリスト教の彫刻を信者たちが担いで歩く行進です。このプロセシオンが歩いている間は、いつもにぎやかなスペイン人でさえ静かに行進を見守ります。
カスティーリャ・イ・レオン地方はサンティアゴ巡礼の2つのルートが通っていることもあって、キリスト教の影響が伝統的に強い地域なんです。
セマナサンタ中のバカラオ(塩鱈)、セマナサンタ後のミートパイ
実は、伝統的にはセマナサンタの期間には肉を食べないんです。なので、スペイン人はこの時期に魚を食べます。でもカスティーリャ・イ・レオン地方は海がないので、食べるのはバカラオ(塩鱈)。ポルトガルを含め、イベリア半島はバカラオが根付いている地域なんです。セマナサンタに食べる典型的な料理の一つにも、「バカラオとヒヨコマメの煮物」があります。
キリストの復活の日が終わるとセマナサンタも終わるわけですが、そうすると肉を食べることが許されるようになります。これもある種のお祭りのようなものですね。
特に、サラマンカ県では、セマナサンタが終わった日の最初の月曜日に、トロメス川の川辺に集まってピクニックをする習慣があります。「ルネス・デ・アグア(Lunes de Agua:日本語に直訳すると「水の月曜日」)」と呼ばれる習慣で、他のカスティーリャ・イ・レオン地方では見られないものですね。
この川辺のピクニックで食べられるのが「オルナッソ(Hornazo)」という肉のパイです。といっても、この「オルナッソ」に入っている肉の量と種類はすごいですよ。チョリソーやロモ(Lomo:ひれ肉の燻製)、ベーコンやゆで卵などがたっぷり入っています。
またセマナサンタ期間にワインを飲むことはあまり良いことではないとされています。そのため、セマナサンタが終わったときに、みんな飲みだすんですね。 翌日はみんな二日酔いに苦しむことになるので(笑)、そうした時に飲むのがニンニクのスープ(Sopa de Ajo)。ニンニクのスープ自体はスペイン全土で飲まれるものですが、スペイン人にとっては「飲んだ翌日に飲むスープ」というイメージなんですよ。
―特に日本人に試してみて欲しいものはありますか?
例えば、先ほど話した「オルナッソ」ですね。元々はセマナサンタ明けの「ルネス・デ・アグア」の時期に食べるものでしたが、いまではサラマンカの旧市街にあるパン屋などで1年中買うことができますし、バールなどで食べることもできます。ただ、相当お肉のボリュームがあるので、もしもお昼に食べたら、その日の晩御飯はかなり軽いものにしておいたほうが良いでしょう。
ハビエル・ペレス・アンドレス氏 (Javier Pérez Andrés)
新聞記者。カスティーリャ・イ・レオン地方のワインやグルメについて30年以上前から様々な媒体で情報を発信してきた、この分野の第一人者。スペインの新聞EL MUNDOがカスティーリャ・イ・レオン地方で毎週発行する日曜版のコラムニストであると同時に、同地方のTV局に番組をもつ人物でもある。