皿を覗くと世界が見える!「イート・ザ・ワールド ~エメリル・ラガッセと世界を食す~」|食の上映室
食をテーマにしたTVプログラムが提供しているのは、世界の食文化や歴史を目で味わえる特別な体験である。スクリーンから登場するキッチンの心地よい音や彩り豊かな数々の料理に出会うと、食の奥深さに魅了されるはず。「食べる」を軸にした作品のなかから、おすすめの番組を紹介する。
皿を覗くと世界が見える。そんな食がもつ豊かな魅力を様々な角度から伝えてくれるのが、Amazonオリジナルドキュメンタリーの『イート・ザ・ワールド ~エメリル・ラガッセと世界を食す~』(Amazon Prime Videoにて独占配信中)だ。
登場人物はアメリカの有名シェフでありレストラン経営者、そしてベストセラー作家の肩書きももつEmeril Lagasse(エメリル・ラガッセ)氏。スウェーデンやスペイン、上海やキューバなど世界を舞台に、各地のシェフと食について語り合い、現地の料理を紹介していく。約30分のエピソードが全6編、どれも見応えたっぷりだ。
通常のグルメ番組とは異なり、食べるだけでは終わらないのがこのシリーズの醍醐味だろう。エメリル氏は現地のシェフと一緒にキッチンに入り、ともに料理をする。食材のストーリーや現地の調理方法に耳を傾けながら、シェフそれぞれがもつオリジナリティーをスパイスのように加えて料理を完成させていく。
自らの感覚を頼りに料理に夢中になる彼らの姿をみると、料理は創作活動ということに改めて気づかされる。シェフたちの根底にあるのは、何よりも料理が好きという純粋な気持ちなのかもしれない。想いや情熱が結実した一皿は、確実に人の心を動かす。才能というのは、好きという気持ちの強さだと思う。
ストーリーの初回である新北欧料理のエピソードは「食は冒険だ」という言葉がぴったりだ。
スウェーデンのレストランでは、伝統的な釜の直火でトナカイの心臓を燻製にしたメニューが登場する。トッピングには斬新にも苔を使用するなど、これまでに見たことも聞いたこともない料理が生み出されていく。伝統文化を重んじながらも新しい料理を目指すシェフの飽くなき食への探究心にふれると、画面をみているだけでもワクワクしてくる。
「一流のプロは謙虚でシンプルだ」というのを教えてくれたのは、第3編のスペインでのエピソードだ。こちらで登場するスターシェフのFerran Adria(フェラン・アドリア)氏は、世界のベストレストランで1位に輝いた超一流の三つ星レストラン「エル・ブジ」でかつて料理長を務めた。しかし様々な料理や技法を生み出すなかで、本当は料理について何も知らないことを悟り、料理の表舞台からは姿を消した。
現在はレストランを閉店して、料理に関するすべてを研究する「エル・ブジ研究所」を運営している。世界にトマトの種類は何種類あって、いつから人々はトマトを食べるようになったのか。どのような調理方法が最も適していて、どのように栽培するのが適切なのか。食に関する情報を徹底的に収集し、発信するのが彼の現在の生業である。
「自分が無知だと知ったことが、最高の発見だった」と朗らかに語る彼は、料理人や哲学者、歴史家とともに創造性とは何かを解析し、これまでとは違った角度から料理と向き合っている。
食から世界を知るという観点においては、イート・ザ・ワールドはドキュメンタリーとしての要素も強い。
最終エピソードでは、2015年に米国との国交が回復したキューバにエメリル氏が赴く。長く共産主義時代を過ごしてきた影響が食文化にも現れている同国では、自国民は主要な輸出品目であるロブスターを食べてはいけないなど独自のルールが形成されており、個人経営の企業の活動も長い間制限されていたという。
そのため各家庭で食材を確保しようと、必然的に都市農園や家庭菜園が発展していった。人々の胃袋を通じて、こうした生きた社会がみえてくる。
世界ではグローバル化が進み、どこにいても好きなものがいつでも食べられるように感じることもある。しかしイート・ザ・ワールドで紹介される鮮やかな現地料理の数々や街の喧騒にふれると、やはり本場の料理に勝るものはないように思う。
食事には栄養はもちろん、その土地の歴史や文化のほか、生きることを楽しむヒントや生きるための知恵がつまっている。食べる楽しみに、国や国籍、政治は関係ない。全エピソードを見終わると、キッチンから世界に飛び立ちたくなること間違いなし!
イート・ザ・ワールド ~エメリル・ラガッセと世界を食す~
出演者:エメリル・ラガッセ、マリオ・バターリ、ホセ・アンドレスなど
制作年度:2016
制作: Amazonスタジオ
視聴リンク:https://www.amazon.co.jp/dp/B01MYWX3DM
ライター、編集者。バングラデシュ、東京、宮城など複数の拠点で生活を送る。海外旅行に行く際はローカルマーケットと地元の食堂散策が欠かせない。トマトとナスとチーズが大好物。