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【ドイツワインの今を巡る旅】ドイツ最古のワイン貯蔵庫を所有していた、ワインが飲み水代わりだった修道院

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ドイツ西部在住で、EAT UNIVERSITY上でこれまでに2度、新型コロナウィルスの影響下にあるドイツの食事情についてレポートしてくれた駒林歩美さん(過去記事はこちらから)。今回、長く、厳しい行動制限が緩和されはじめている現地で、駒林さんはワインの名産地であるモーゼル川沿いのワイナリーを、自転車で巡る旅に出掛けました(第1回はこちら)。

まず初めに訪れたのは、ドイツ西部のトリアーにあるトリアー慈善協会連合だ。このワイナリーはドイツ最古のワイン貯蔵庫を持ち、ワインを飲み水代わりにしていた中世の修道院の頃からワイン作りをしていたという歴史を持つ。長い歴史とは裏腹に気取ったところはなく、色々と親しみの感じられるワイナリーだった。

トリアーは、紀元前50年にローマ人が征服した地域で、紀元前17年からローマ人によって建設された都市だ。当時はアルプス以北のローマ都市のなかでは最も重要な都市だったそうだ。いまもここには、ローマの遺跡が残り、当時建設された門や円形劇場やローマ風呂などの史跡地が見られる。

そして、ドイツ最古のワイン貯蔵庫がここには残っている。ローマの皇帝の命令によって川沿いに建設された地下貯蔵庫には、古代ローマ時代の西暦330年にワインが保管されていたことが記録に残っているそうだ。

この最古の貯蔵庫を現在所有しているのが、フェライニグテ・ホスピティエン(トリアー慈善協会連合)で、上質なワインを作っている。

ワインが飲み水代わりだった中世の修道院

貯蔵庫の所有者は何度か変わったが、640年ごろから所有していた聖イルミーネン女子修道院では、飲み水としてワインを作っていた。

中世ドイツでは、清潔な飲み水を入手するのが難しかったことから、修道院ではワインを飲料水の代わりに飲んでいた。1人の修道女に日に3リットルものワインが支給されたそうだ。今ほど深い味わいのものではなく、アルコール度数も低かったそうだが、当時の人々は常にほろ酔いだった可能性がある。同修道院が世話をする病人もワインを水代わりに飲んでいたらしい。

また、ワインは修道院の重要な収入源ともなっていた。多くの修道院はワインを作り、今でも教会と結びついたワイナリーが多く存在する(なお、ぶどうが生産できない地域では、ビールが作られ、やはり飲み水代わりに飲まれていた)。

その後、ナポレオンがドイツを支配した1800年前後、この大きな修道院は世俗化され、それまで街中に散らばっていた病院や慈善施設が、この貯蔵庫の上の地区に一箇所にまとめられた。その後、修道院でのワイン作りは、この慈善協会連合に引き継がれた。

トリアー慈善協会連合のワインは、1,000年以上に及ぶ伝統を生かして作られ、高い評価を得ている。日本にも50年以上輸出しており、ワイン作りを勉強に来た日本人を受け入れたこともあったそうだ。なお、当時の修道院が所有していたぶどう畑も引き継がれている。

モーゼルだからこその高樹齢木

私がここで飲んで印象に残ったのは、高樹齢の木に実ったピノ・グリ(ドイツ語では、グラウブルグンダー)の畑から取れた、厳選したぶどうを使って作った、2019年のリザーブワインだ。

辛口でほのかな酸味を持ち、キリッとしつつ、同時に甘い果実の芳香が漂う。そのエレガントさにうっとりとしてしまった。

樹齢50年程度と、古い樹木から作り出されたぶどうの果汁は非常に濃厚で、豊かな風味を生み出す。古い木に実るぶどうの実には種が作られず、その分のエネルギーが果実に濃縮されるのだそうだ。フランスでは25年くらいの樹木から高樹齢と言うそうだが、歴史の長いモーゼルのぶどうの木は、高樹齢というとその倍の長さになる。どれだけ濃厚なぶどうが実るのか、想像できるだろう。

複数の代理店を通じて多種類のワインを日本に輸出している同ワイナリーだが、リースリングであれば3,000円前後から購入可能だ。

なお、現在、ワインの熟成や貯蔵は、古いワイン貯蔵庫では行われておらず、深く、気温の低い地下の別の空間で現代の手法を用いて行っているそうだ。斜面で作られるぶどうは、すべて手作業で手入れや収穫が行われ、完熟した実を丁寧に絞って洗練したワインを作る。

そして、伝統通り、今もワイナリーの売り上げの一部は、同団体が運営する社会福祉施設や老人ホームなどに利用される。老人ホームのお年寄りも、健康状態に問題がないと医師が判断すれば、日曜日に同ワイナリーで作ったワインをグラス1杯飲めるらしい。粋である。

その老人ホームの前を通りかかったが、お年寄りも心穏やかに過ごせそうな緑いっぱいの静かな環境だった。

駒林 歩美
歴史と緑の豊かな、ドイツ西部の小都市でのんびり暮らすフリーランサー。これまでオランダやイギリスの大学院で学び、東南アジアなどで働き、あちこちで美味しいものを探す。6カ国目のドイツでは、ソーセージなどの肉料理、ドイツパンの美味しさに目覚める。時には新鮮なシーフードを求めて欧州各国を旅するのが好き

 


 

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