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【ドイツワインの今を巡る旅】ドイツワインは温暖化で美味しくなっていく?

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ドイツ西部在住で、EAT UNIVERSITY上でこれまでに2度、新型コロナウィルスの影響下にあるドイツの食事情についてレポートしてくれた駒林歩美さん(過去記事はこちらから)。今回、長く、厳しい行動制限が緩和されはじめている現地で、駒林さんはワインの名産地であるモーゼル川沿いのワイナリーを、自転車で巡る旅に出掛けました(第1回第2回)。

2つ目に訪れたのはドクター・ローゼン。数多くの国際大会でも受賞している名門ワイナリーだ。近年の温暖化によって、よりワイン作りに適したぶどうが取れるようになり、ワインの質は高まっているという。また、世界中での自宅でのワイン消費増加に支えられ、コロナ禍でも過去最高利益を出しているという。

モーゼルの名門ワイナリー

トリアーから50kmほど下流に進んだベルンカステル・クースという町にあるドクター・ローゼンは、200年の歴史を誇り、数多くの国際大会で高い評価を獲得している。現在の当主のエルンスト・ローゼン氏が高品質ですぐれたワインを作り、かつては「甘い安いワイン」と言われていたドイツのリースリングワインの評判を高めてきた。日本にも長く輸出している。

ベルンカステルの街を外れたところにあるワイナリーにたどり着くと、その歴史と風格にふさわしい、歴史的な美しいビラにDr ローゼンはあった。

伝統ある高貴な家系で作られてきたワイン

ドイツのワイナリーは大体が家族経営で、代々子どもに引き継がれていく。このベルンカステル周辺は、特に18世紀くらいからと歴史の長いワイナリーが多く、歴史的なお屋敷を持っているところも少なくない、

ワイン作りには大きな資本が必要だったため、18世紀や19世紀にワイナリーを経営していたのは医師や地域の名士など、大きな邸宅を持てるような資産家に限られた。お屋敷も代々継承されているのだ。

当然、当時ワインを作るために働いていたのは貧しい農民だった。今でも多くの手作業を求めるワイン作りは非常に労働集約的だ。現代では、収穫や剪定など人手のいる時期にルーマニアやポーランドなどから季節労働者がやってくる。急な斜面では機械が使えないので、ぶどうの状態を確認するのも、人が斜面に登って実際に確認しなければ行えない。

エルンスト氏がワイナリーを継承した際、樹齢の長い、生命力の高い木を重視し、化学肥料の使用もやめた。そしてよい気候条件を備えた土壌から実ったぶどうを丁寧に絞り、そのまま樽に入れて、自然に発生する酵母で発酵させ、12ヶ月寝かせるという伝統の手法でワインを作っている。

ワインの質は畑の土壌と気候条件で決まる

ここで私が試したのは、5種のワイン。どれもエレガントですっきりとした中に漂う甘い香りにうっとりとさせられた。

どのワインも、特定の上級畑から取れたぶどうのみを使用してワインが作られる。土壌も少しずつ異なり、ワインの風味が少しずつ異なる。

①畑の向き(南西が最高で、北向きの畑では栽培しない)、②斜面の傾斜(急なものほど良い)、③畑の高度(川に近いほど日光の反射を受け、気温が高く、水はけも良い中腹が最高)という3つの条件がより揃ったものものほど、上級の畑とされる。

試したなかで比較的温暖だった2019年の辛口なものが主で、なかでも、「ウルツィガー・ヴュルツガルテン(スパイスガーデン)2019」が個性的で印象に残った。火山質の赤い土壌で育てられたぶどうから作られたワインは、どことなくスパイシーでエキゾチックな香りがする。土壌がそういう風味を与えるので、それを引き出すために丁寧に作り上げるのだそうだ。

また、一つ2016年の希少なリザーブワイン「エルドナー・プラテット2016」を試させてもらった。通常の倍の2年かけて発酵と熟成を行い、3年間寝かせたというものだ。味わいはすっきりしているのだが、トロピカルフルーツのような甘さが広がる。

このワインは、前述の3つの条件が完璧なのに加え、さらに斜面のせりだした岩場が畑を囲み、風を防ぐことでさらに温暖な環境下にある、「エルドナー・プラテット(司教)」と呼ばれるわずかな広さの畑から取れた希少なぶどうだけを使用している。

さらに粘板岩の薄い層であるスレートの赤い土壌に豊富に含まれるミネラルを吸収した古木が生み出すブドウの実から作られたこのワインは、非常に味わい深く、複雑で濃厚で重層から成る甘い香りを持つ。

あまりに希少で、年に100ケースしか取れないため、各国にいる販売業者に少しずつだけ分配しており、ドイツ国外では特に入手が困難なワインだ。ドイツ国内では1本300ユーロで販売されていると言う。

これらの種のワインがオンラインで個人に販売されているのは確認できなかったが、私が試飲した左の青いスレートから取れた2019年ブルースレート・リースリングは、3000円程度で購入することができる。こちらは最上級畑から取れたものではないのだが、風味が十分豊かかつエレガントなワインで、我が家も後にオンラインで買い込んだ。

なお、最上級畑の高樹齢木から取れた5年前ほど前のヴィンテージは7,000円程度と、ドイツ国内での販売価格の3倍近くになってしまうので、ぜひ再び旅行ができるようになったら欧州ワイン旅行でも企画して欲しい。

温暖化で質が高まるドイツワイン

なお、昨今の温暖化によって、この地域では取れるぶどうの糖度が上がり、よりワイン作りに適した環境になったそうだ。

南フランスやカリフォルニアなど、もともと温暖な地域のワイナリーは、水不足や高温などの問題に悩まされているが、元々厳しい環境にあったモーゼルでは、環境の変化がワイン作りにプラスに作用している。

特に温暖だった2018年は本当に良い年で、より濃厚な味わいのワインができた。収穫されたぶどうの糖度が高いと、発酵で生じるアルコール量が増える。かつては10%以下だったアルコールも今では12%にまで上がった。

20年前には、十分ブドウが成熟しない年もあった。そのように元々厳しい環境下で磨き上げられてきた技と繊細な感性が、より暖かな日差しの下で出来上がったぶどうと合わさって、さらに素晴らしいワインが現在作られている。

これらのワインは非常に素晴らしいので、是非試していただきたい。

なお、コロナ禍で、ドイツのレストランは7ヶ月ほどほとんど営業が許されず、ワインをレストランにはまったく販売できなかった。しかし、ドクター・ローゼンの2020年のワインの売り上げは過去最高だったという。

というのは、人々は家でワインを飲むようになり、インターネット上でのドイツ国内顧客への販売が急増したのに加え、輸出も増えたそうだ。

駒林 歩美
歴史と緑の豊かな、ドイツ西部の小都市でのんびり暮らすフリーランサー。これまでオランダやイギリスの大学院で学び、東南アジアなどで働き、あちこちで美味しいものを探す。6カ国目のドイツでは、ソーセージなどの肉料理、ドイツパンの美味しさに目覚める。時には新鮮なシーフードを求めて欧州各国を旅するのが好き。

 


 

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