1. HOME
  2. 「知る」
  3. 【現地レポート】「早朝に夕食をとろう!」プロジェクトも?2020年のイタリアの食生活はどう変わったか
「知る」
画像ーmarket

【現地レポート】「早朝に夕食をとろう!」プロジェクトも?2020年のイタリアの食生活はどう変わったか

「知る」

今春、EAT UNIVERSITYでは、新型コロナウィルスの影響下、様々な制限がある中で人々がどのように食を楽しんでいるか、イギリス、イタリア、スペイン、ドイツ、それぞれの国の状況を現地レポートとして発信したそれから半年以上が経った今、コロナ前とはすっかり変わった環境の中で、現地の人々は毎日どのように食と向き合っているのか。
前回、小麦粉とイーストが品薄となっているイタリアの様子をレポートしてくれた、ローマ近郊在住で、EAT UNIVERSITY寄稿ライターである井澤佐知子氏に、現在のイタリア国民の食について再度レポートしてもらおう。

春のロックダウンを乗り越えて、マスク持参で謳歌した夏のバカンス。

イタリアは秋を迎え、現在Covid-19感染拡大の第2波の真っただ中にある。11月4日現在、国全体のロックダウンこそないものの外出や外食には制限が課されている。

コロナ一色に塗りつぶされた2020年、イタリアにおける「食」はどのように変化したのであろうか?

ロックダウン明けに長蛇の列ができたのは?

2020年5月初め、ロックダウンの一部が解除されて外食産業の規制も部分的に緩和された。その時話題になったのは、マクドナルドの前にできた長蛇の列である。人々は2時間も並んで、ファーストフードのハンバーガーにありつこうとしていたのだ。

3月から始まったロックダウン中、人々は自宅でさまざまな料理をしてソーシャルにあげる現象が話題になった。いっぽうで、ジャンクフードにも飢えていた人も少なくなかったことを表す現象として注目された。

しかしこれは笑い話であり、一般的なイタリア人の思いはより健康的な食へと向かっていることが各新聞の論調で明らかになっている。

ロックダウンによって余儀なくされた食生活の変化

イタリアの食生活は、ロックダウンによって大きく変わったといわれている。必要な食材を購入するためにスーパーマーケットに並び、1日中自宅で過ごして冷蔵庫の中の状況も熟知する日々の中で、まず廃棄食料が激減したことがあげられる。1回の買い物で仕入れた食材を、いかに無駄にしないでできるだけが長くもたせるかは誰もが考えていたことだから当然の帰結かもしれない。

ボローニャにある調査機関「Future food institute」が行ったアンケートによれば、対象となった1,000人のうち40%近くが「食の廃棄」に敏感になったと答えている。また、60%は「食材を一つも無駄に使い切るようになった」と回答している。

さらに、より健康的で規則的な食事をするようになったと答えた人が60%、家族や同居している人と食卓を囲む時間を大事にするようになったかについては、78%がイエスと答えているのである。

競うようにお菓子やパンを自宅で作るようになった現象は以前に伝えたが、反動で市販の菓子の購入は40%減少したといわれている。

「量」よりも「質」の時代へ

画像ーmilk

スーパーの牛乳コーナー

人々が食の品質にこだわるようになった事象をよく表すものに牛乳の消費があげられる。小麦粉やイースト菌、卵の売り切れが続出したロックダウン中のイタリアでは、牛乳も品質の良いものから品切れ状態となった。牛乳はもちろん、巣ごもり生活中に作るお菓子や料理の必需品であった。

イタリアの乳製品の連盟である「Assolatte」は、過去5年間減少傾向をたどっていた牛乳の消費自体がロックダウン中は増大したと伝えている。2020年2月から5月の牛乳の消費は、2019年の同時期と比べても22.3%も上昇した。

わけても「ヴィンテージ」とか「プレミアム」という形容詞 が付いた高級品の売り上げは著しかった。さらに、独特のにおいが敬遠されて需要が少なかった山羊や羊のミルクの供給も大きく伸びている。これらのミルクの特徴は、脂肪が少なく良質なたんぱく質の摂取が可能であることにある。日常的に消費する牛乳ひとつをとっても、大きな変化があったことがわかる。

地産地消、そしてオーガニック!

 

画像ーmarket

イタリア各地で開催される青空市場

食べることが大好きで、かつ郷土愛の強いイタリア人が、この非常時にあたってより地元の食材を購入する傾向にあるのは当然かもしれない。

イタリア各地では定期的に青空市が開催されて、オープンなスペースで地元産のより新鮮な食材が入手できるのである。Covid-19の感染拡大は、こうした地産地消の食材への需要に拍車 をかけることになった。専業農家連盟(Coldiretti)の調査では、イタリア人の10人中8人はできればイタリア産及び地元産の食材を購入すると答えている。また近年話題のオーガニック食材も、数年前までは富裕層の特権のように受け取られていたものの、最近はスーパーにオーガニックコーナーが設置されて好んでこちらを選ぶ人が増えてきた。

同連盟の別の調査で、全体の27%の人が「コロナ以前と比べてオーガニック食材を購入するようになった」と答えている。

こうした風潮に応えて、大手のスーパーチェーンでは今後 、オーガニックやサステナビリティにこだわった食の供給を目指すと明言しているところもある。

第2波到来!そのときレストランは?

画像ーposter

バールの入り口には「18時以降はお持ち帰りのみ」の張り紙。

2020年10月に入って、イタリアをはじめとするヨーロッパは第2波に見舞われている。フランスやベルギーがロックダウンを宣言する一 方、イタリアは州ごとの状況で制限のレベルが変わる。

その中で犠牲を払うことになったのが、バールやレストランである。首相令によってこれらの営業は18時までと決められてしまったのだ。イタリアの平均的な夕食の時間は20時ごろ。18時といえば、まだ夕方でアペルティフを楽しむ時間である。つまり、18時閉店はレストランにとっては収入の大半を失うことを意味する。

春のロックダウンは挙国一致の心意気で乗り切ったレストランやバールも、今回の規制には大いに反発し各地で暴動も起きている。

また、政府の規制に反発して「早朝に夕食をとろう!」高名なシェフたちがデモンストレーションを行っている。つまり、早朝の6時前後に夕食をとるというプロジェクトで、賛同した人々によって盛り上がった。

持ち帰りやデリバリーは18時以降も認められている。前回のロックダウンの教訓を生かして、比較的安易にソーシャルを利用してデリバリーでの注文ができるようになったことは消費者にはありがたい。

レストランの18時閉店について歴史家は?

イタリアの歴史番組によく登場する学者アレッサンドロ ・バルベーロ氏は、数年前に食事時間の変遷について執筆した。

今回の「レストラン18時閉店」について彼は、「第1次世界大戦以前の世界に戻ることもひとつのアイデア」と語った。すなわち、かつての富裕層たちは午後2時ごろまで仕事をし、午後3時ごろに充実した食事をとることで仕事と娯楽の時間を分けていたというのだ。

この午後の昼食はほぼコース料理で、そのため夕食は摂取しないことも多かったという。これはほぼ100年前の世界である。

現代人は、朝から晩まで仕事をするために昼食はそれを中断するものとして軽食で済ませてしまう。その分、夕食がより重くなったというわけだ。就業時間を短くして 午後の3時か4時ごろにメインとなる食事をすれば、18時閉店のレストランのためには一助になるだろうという意見なのである。

非現実的ではあるけれど、100年前はそれが通常であったことを知るのは興味深い。

見えない将来と不安の中で

世界に先駆けて国全体でロックダウンをしたイタリア。サッカーのワールドカップ応援並みの団結力で乗り切ったものの、先が見えない不安で人々は疲弊し動揺し続けている。せめて健康だけは維持したいと希求する人々によって、食生活も変わりつつある昨今なのである。